どうして起こるの?

脊髄性筋萎縮症(SMA)とは

背骨の中には脊髄(せきずい)と呼ばれる神経の束があります。SMAはこの脊髄の中にある、筋肉を動かすためにはたらく細胞(運動神経細胞)が変化して、手や足などの筋肉が弱くなっていく病気です。筋肉が弱くなることを筋力低下とも呼びます。
赤ちゃんから大人まで幅広い年齢層で発症します。
乳児~小児期に発症するSMA患者さんの割合はおよそ10万人に1~2人とされています1)。また、1歳半までに発症する病型の患者さんの割合が高いです2)

<イメージ図>

SMAの原因

ほとんどのSMAは、SMN1という遺伝子の変化に原因があります。
SMN1遺伝子は、筋肉を動かすために必要なSMNタンパク質※1をつくっています。
SMA患者さんはSMN1遺伝子の一部を持っていない、もしくは、持っていても変化しているためにSMNタンパク質をつくることができません。
SMN1遺伝子に似たSMN2(エスエムエヌツー)遺伝子からもSMNタンパク質がつくられます。しかし、そのほとんどは正しくはたらかないSMNタンパク質です。
このように、SMA患者さんではSMNタンパク質がわずかしかないために、脊髄※2にある運動神経細胞が変化して、筋肉の萎縮(いしゅく)が起こります。
それにより、筋力が低下して手や足などが動かしにくくなり、立てない、うまく歩けないといった症状があらわれます。
SMNタンパク質の量が少ないと、筋肉だけでなく、消化器や骨など、体のさまざまなところで影響がでるとされています3)

  1. ※1:運動神経細胞生存タンパク質
  2. ※2:背骨の中にある神経の束
<イメージ図>

出典4)より作成

遺伝子の役割と遺伝

人間の体はさまざまな細胞からつくられています。たとえば、骨や筋肉なども細胞からできています。この細胞をつくるためには、体のどこの、どんな細胞をつくるのか詳しい情報が必要です。これらの情報を持っているのが「遺伝子」で、人間の体をつくるための設計図のようなものです。

遺伝子の持つ情報が親から子どもへ伝わることを「遺伝」と呼びます。目の形や髪の色が、父親や母親に似ているのは遺伝のためです。同じように、病気も遺伝することがあります。

SMAの遺伝

子どもは、両親から1つずつ遺伝の情報を受け継ぎますが、たとえば、SMAを発症していない両親であっても、SMN1遺伝子に何らかの変化がある遺伝の情報を共に1つ持っている場合、その子どもは25%の確率でSMAを発症します。
そのため、SMA患者さんのきょうだい全員が必ずしもSMAを発症するわけではありません。

※保因者(ほいんしゃ):SMN1遺伝子に何らかの変化がある遺伝の情報を1つ持っている人
出典5)より作成

遺伝カウンセリング

遺伝に関して不安がある方は医療機関で相談することができます。施設によっては「臨床遺伝専門医」という遺伝の専門医に相談することもできます。
臨床遺伝専門医は、遺伝に関する情報をわかりやすく説明し、公認心理師(臨床心理士)や認定遺伝カウンセラー®※と協力して、SMA患者さんやご家族が疑問や悩み、不安などを解消していくためのお手伝いをします。
遺伝学的検査を実施する場合に、遺伝カウンセリングにより、検査前から診断後まで、心理面や社会面も含めてサポートします。
各職種の役割の詳細は「Voice」をご参照ください。

  1. ※:医療施設によっては在籍していないことがあります。
  2. 1)小児慢性特定疾病情報センター.42 脊髄性筋萎縮症. https://www.shouman.jp/disease/details/11_18_042/, (2024年9月5日閲覧)
  3. 2)厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業).神経変性疾患領域における調査研究班 平成30(2018)年度(分担)研究報告書.
  4. 3)Yeo CJJ, Darras BT. Pediatr Neurol. 2020; 109: 12-9.
  5. 4)Swoboda KJ. J Clin Invest. 2011; 121: 2978-81.
  6. 5)新川詔夫 監,太田亨,他.遺伝医学への招待.改訂第6版.南江堂; 2020. p.74-82.

総合監修
東京女子医科大学ゲノム診療科 特任教授
齋藤 加代子 先生

1976年 東京女子医科大学医学部卒、80年 同大学院臨床医学系小児科学修了。東京女子医科大学小児科学教室助手、同教室講師、助教授を経て、99年 教授。2001年 東京女子医科大学大学院先端生命医科学系専攻遺伝子医学分野教授を兼任、04年 同附属遺伝子医療センター教授専任・所長。16年 同副学長、17年より同名誉教授(現職)、同附属遺伝子医療センター特任教授・所長。東京女子医科大学臨床ゲノムセンター所長、同病院遺伝子医療センターゲノム診療科特任教授を経て、21年4月より同ゲノム診療科特任教授(現職)。専門は遺伝医学、小児神経学、小児科学。

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2024年9月改訂