どのような治療をするの?
SMAの原因への治療と、合併症のケアをします。
SMAの治療
SMAの原因に対しては、SMNタンパク質をつくりやすくするお薬の治療があります。
お薬の治療はできるだけ早く始めることが大切です。
また、SMAがもとになってさまざまな症状が引き起こされる合併症に対しても、ケアすることが必要です。
これらの治療とケアには、医師、看護師のほかにもさまざまな役割を持つ専門家がかかわります。
多くの医療関係者が、SMAを治療する患者さんとご家族をサポートしています。
SMAの合併症に対するケア
SMAの合併症にはさまざまなものがあります。
ここでは特に重要な呼吸に関する症状、食べることや飲み込むことに関する症状、体の動きや姿勢に関する症状とこれらのケアを、詳しくご紹介します。
呼吸に関する症状とケア
呼吸に使う筋力が低下すると、寝ているときなどに苦しくなることがあります。
せきがしづらくなって、たんが絡みやすくなるほか、風邪などの感染が起こりやすくなることもあります。
また、息を吸うときに胸がへこんでおなかがふくらみ、息を吐くときはその逆で胸がふくらんでおなかがへこむ「シーソー呼吸」がみられることもあります。
たんを出す力が弱いため、たんの吸引やリハビリテーション(リハビリ)を行うほか、カフアシストを使います。
鼻マスクなどで呼吸のサポートを行うことがありますが、それでも血中の二酸化炭素の濃度が下がらないなど、生命の危険がある場合には、気管切開をして人工呼吸器による管理を行います。
食べることや飲み込むことに関する症状とケア
ミルクを吸う力が弱いほか、食べ物を飲み込みづらいことから、Ⅰ型の方では誤って気管に食べ物が入ってしまう誤嚥(ごえん)を起こすことがあります。
また、かむ力が弱くなることで食事で疲れやすくなるほか、食事に時間がかかります。
そのため、食べ物を柔らかくするなどの工夫をします。飲み込みの検査を行い、口から食べることが難しいとわかった場合や、体重が増えなかったり減ったりした場合は、栄養状態の悪化を防ぐため、鼻からチューブなどで栄養を取る「経鼻栄養(けいびえいよう)」や、胃に直接食べ物を送れる入り口をつくる「胃ろう」という方法をとることがあります。
また、胃や腸の状態が悪いと、胃の中のものを吐く嘔吐(おうと)や食後の吐き気、おなかの不快感などがあらわれる胃食道逆流症(いしょくどうぎゃくりゅうしょう)がみられることがあります。
栄養状態が悪化しやすいため、必要に応じてケアが行われます。
体の動きや姿勢に関する症状とケア
Ⅱ型の方や、歩行ができなくなったⅢ型の方では、進行すると、膝、足首、肘などの関節を伸ばしたり、曲げたりできなくなる関節拘縮(かんせつこうしゅく)がみられるようになります。
また、座る姿勢をとる時間が長いⅡ型の方や、思春期前に歩行ができなくなったⅢ型の方では、背骨の周りの筋肉が弱いために背骨がうねるように曲がる側弯(そくわん)がみられることもあります。
これらのケアには日々の姿勢の管理や、ストレッチをします。
また、サポーターのような装具(そうぐ)を手足やおなかの周りに装着して、これらの症状が進まないようにサポートします。
歩きづらい場合には、つえや車いすを使用します。
背骨の状態によっては背骨の並びを矯正する手術を行うこともあります。
このほか、リハビリも重要なケアのひとつです。
患者さんが体をうまく動かせるようにするために、また関節拘縮の予防のためにも行います。
患者さんに合わせたリハビリを理学療法士や作業療法士がサポートします。各職種の役割の詳細は「Voice」をご参照ください。
症状が進まないように、医療機関だけでなく、ご自宅でも無理をしない程度に毎日リハビリを続けることが大切です。
また、骨がもろくなることもありますので、転倒しないように注意することが必要です。
治療中の生活
治療期間中は無理をせず、疲れを感じたら十分な休息をとるようにします。
睡眠を十分にとり、規則正しい生活を送ることも大切です。
また、人の多い場所は避けるなど、感染にも注意しましょう。
SMAの治療やケアにかかる費用については国のサポートなどがあり、必要に応じて利用することができます。
総合監修
東京女子医科大学ゲノム診療科 特任教授
齋藤 加代子 先生
1976年 東京女子医科大学医学部卒、80年 同大学院臨床医学系小児科学修了。東京女子医科大学小児科学教室助手、同教室講師、助教授を経て、99年 教授。2001年 東京女子医科大学大学院先端生命医科学系専攻遺伝子医学分野教授を兼任、04年 同附属遺伝子医療センター教授専任・所長。16年 同副学長、17年より同名誉教授(現職)、同附属遺伝子医療センター特任教授・所長。東京女子医科大学臨床ゲノムセンター所長、同病院遺伝子医療センターゲノム診療科特任教授を経て、21年4月より同ゲノム診療科特任教授(現職)。専門は遺伝医学、小児神経学、小児科学。
2024年9月改訂