Voice ~SMA患者さんやご家族を支えるチームメンバーの役割~
脊髄性筋萎縮症(せきずいせいきんいしゅくしょう、SMA)患者さんの治療にあたるのは医師だけではありません。多くの医療関係者が一つのチームとして、患者さんやご家族の療養生活や日常生活を支えています。また、いくつかの医療施設が連携して治療にあたる場合もあります。
ここでは、SMA患者さんにかかわるさまざまな医療関係者の仕事内容や、困り事があったときに誰に相談すればよいかをご紹介します。いざというときに頼れる人たちがたくさんいることを知っておけば、こころの安心にもつながります。
解説をご覧いただけます
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SMAを治療する
チームの
リーダーです -
日常診療や
訪問診療などを
行います -
消化器の治療を
行います -
呼吸器の治療を
行います -
骨・関節の治療を
行います -
治療中のさまざまな
ケアを行います -
お薬の管理や
飲み方のサポートを
行います -
からだを
動かすための
リハビリテーション
を行います -
生活に関する
リハビリテーション
を行います -
飲み込みや
発声・発語を
サポートします -
食事や栄養の
アドバイスをします -
病気の遺伝について
専門的に
サポートします -
患者さんとご家族の
こころの
ケアをします -
お金や生活の
お悩みを
サポートします
SMA専門医
SMAは脊髄(せきずい)や神経、筋肉などの病気を専門的にみる神経内科医が中心になって治療にあたります。お子さんがSMA患者さんの場合は小児神経科医が診断を行い、ご家族と相談しながらどのような治療を行うかを考えていきます。治療ではたくさんのスタッフが一つのチームとして患者さんの療養生活や日常生活のケアにあたっています。SMA専門医はそのチームのリーダーとして、治療方法を決定したり、メンバーと協力したりしながら患者さんがよりよい生活を送れるよう力を尽くしています。
かかりつけ医
SMA専門医がSMAに関する主治医であるのに対し、かかりつけ医は患者さんのお住まいの近くの病院・診療所などでの診療や患者さんの自宅を訪れて診療する訪問診療などを行う医師です。お子さんがSMA患者さんの場合は、主に小児科医がかかりつけ医としてSMA専門医と連携をとりながら患者さんをケアします。患者さんやご家族に最も近い医療の窓口として、日常生活をサポートしています。
消化器科医
SMAでは、胃食道逆流症や便秘、腹部膨満など消化器の機能障害が起こりやすくなります。こうした消化器症状に対する診断や治療を行うのが消化器科医です。また、長期にわたって口から食事をとることができない患者さんで胃ろう(おなかの外から胃に直接栄養を送る入り口)の適応と判断された場合には、胃ろうを造設する手術なども行います。からだのエネルギーとなる栄養摂取の障害には、管理栄養士と協力して対応します。
呼吸器科医
SMAのⅠ型やⅡ型の患者さんは、呼吸筋力の低下から呼吸不全をきたすことがあります。こうした呼吸機能障害の治療にあたるのが呼吸器科医です。せきやたんがうまく出せない患者さんには、言語聴覚士と協力しながら呼吸リハビリテーションを行ったり、自分の力でうまく呼吸ができない患者さんには、酸素療法や人工呼吸療法を行ったりします。また、嚥下(えんげ)障害や胃食道逆流症の合併から肺炎に至ることもあるので、呼吸器感染症の対策にも力を注いでいます。
整形外科医
SMAのお子さんは、筋力の低下で背骨が曲がったり[脊柱側弯(せきちゅうそくわん)症]、関節のこわばり[拘縮(こうしゅく)]などでからだを動かしにくくなることがあります。その診断や治療を行うのが、整形外科医です。診断では、筋力や関節の動く範囲、座る・立ち上がる・歩くといった運動機能、骨の状態などを調べます。治療では、骨を強くしたり関節を動きやすくしたりするための運動療法や、曲がった背骨を伸ばす手術を行ったり、用具や車いすなど移動のサポートを提案したりします。理学療法士や作業療法士などリハビリテーションの専門家と協力しながら、患者さんの運動機能の改善に取り組んでいます。
看護師
看護師は医師をサポートしながら、患者さんの近くでからだやこころのケアをしています。SMA患者さんの中には、人工呼吸器など、医療的ケアを必要としている方も多く、そうした処置はもちろん、訪問看護での入浴や食事の補助、同行しての外出時のサポートなども行います。
薬剤師
薬剤師はお薬のスペシャリストとして、病院や薬局でお薬を準備・お渡ししたり、お薬や飲み方の説明などを行ったりしています。お薬が飲みづらい場合や飲み忘れた場合の対処法、ほかのお薬との飲み合わせ、副作用のことなど、お薬に関するさまざまな質問にお答えします。処方されたお薬は安全に、正しく飲むことが重要なので、ささいなことでもためらわずに薬剤師にご相談ください。
理学療法士
理学療法士は、立つ、座る、歩く、寝返るなどのからだの基本的な動作を改善するリハビリテーションの専門家で、PTとも呼ばれています。歩行が難しい患者さんへの歩行訓練や、関節の動く範囲を広げたり、関節のこわばり[拘縮(こうしゅく)]を予防したりするストレッチ、筋力トレーニングなどの運動療法を行います。また、食べ物などを飲み込みやすくなるように姿勢の調整や補装具で工夫をしたり、呼吸をしやすくする胸のストレッチや呼吸法、たんを出しやすくする姿勢の指導など、呼吸リハビリテーションを行ったりしています。からだの機能を回復・維持するため、理学療法士は患者さんのモチベーションを保ちながらケアするよう心がけています。
作業療法士
作業療法士は、食事、入浴、着替え、文字を書くなどの日常生活に必要な動作や、手・指を使う作業がスムーズに行えるようサポートするリハビリテーションの専門家で、OTとも呼ばれています。動作をサポートする補装具や用具などを活用したり、患者さん一人一人に合わせて改良したりします。歩行に障がいのある患者さんに電動車いすを使って移動できるよう指導したり、声でコミュニケーションを取ることが難しい患者さんにスイッチやパソコンなどを使って意思伝達ができるようにしたりするなど、患者さんの世界を広げるお手伝いをしています。
言語聴覚士
言語聴覚士は、言葉を話すことや食べ物などの飲み込みに障がいのある患者さんをサポートするリハビリテーションの専門家で、STとも呼ばれています。SMAの患者さんの中には、気管切開によって声を出すことが難しかったり、食べ物を上手にかんで飲み込んだりすることが難しい場合があります。こうしたお困り事に対し、言語聴覚士はSMA専門医と連携しながら、リハビリテーションや指導、アドバイスなどを行います。例えば、せきやたんがうまく出せない患者さんには、呼吸器科医と協力しながら呼吸リハビリテーションを行います。
管理栄養士
管理栄養士の仕事は食事や栄養の管理です。病院食の献立の作成や栄養素の計算から、患者さんやご家族に直接、栄養や食事のアドバイスも行います。SMAの患者さんの中には、寝たきりやかむ力の低下などで十分な食事がとれずに栄養が不足してしまったり、運動量が少なく栄養をとりすぎてしまったりすることもあるので、それを防ぐために管理栄養士はさまざまな知恵を絞っています。飲み込みが難しい患者さんには、食材の切り方や調理法を工夫するなど、おいしく安全な食事のアイデアも提案します。
認定遺伝カウンセラー®
認定遺伝カウンセラー®は、SMA患者さんやそのご家族に対して遺伝にかかわる医学的な情報をわかりやすく説明し、遺伝に関する疑問や悩み、不安などを解消していくためのお手伝いをします。看護師や公認心理師(臨床心理士)といった職種から認定遺伝カウンセラー®となることもあります。遺伝学的検査では検査前から診断後まで、心理面や社会面も含めてサポートします。SMAのお子さんに病気の説明をされる際や、次のお子さんの妊娠・出産を検討される場合もお話を伺います。
遺伝カウンセリングを行っている医療機関は、全国遺伝子医療部門連絡会議の「登録機関遺伝子医療体制検索・提供システム」から調べることができます。ここに載っていない場合でも、遺伝にかかわる部門を設けている施設もありますので、認定遺伝カウンセラー®に相談したい方は医療機関にご確認ください。
公認心理師(臨床心理士)
公認心理師(臨床心理士)は、患者さんとご家族の悩みや不安を解決するお手伝いをします。心配や不安に思われていることをお聞きして、話し合ったり、さまざまな選択肢をお示ししたりすることで、前向きになっていただけるようにサポートしています。病気に関することはSMA専門医と、生活の中のことはソーシャルワーカーと連携することもあります。患者さんご本人だけでなく、ご家族に関するお悩みなど、どのようなことでもお気軽にご相談ください。
公認心理師とは、2017年にできた心理職の国家資格です。
総合監修
東京女子医科大学ゲノム診療科 特任教授
齋藤 加代子 先生
1976年 東京女子医科大学医学部卒、80年 同大学院臨床医学系小児科学修了。東京女子医科大学小児科学教室助手、同教室講師、助教授を経て、99年 教授。2001年 東京女子医科大学大学院先端生命医科学系専攻遺伝子医学分野教授を兼任、04年 同附属遺伝子医療センター教授専任・所長。16年同副学長、17年より同名誉教授(現職)、同附属遺伝子医療センター特任教授・所長。東京女子医科大学臨床ゲノムセンター所長、同病院遺伝子医療センターゲノム診療科特任教授を経て、21年4月より同ゲノム診療科特任教授(現職)。専門は遺伝医学、小児神経学、小児科学。
2021年8月作成
ソーシャルワーカー
ソーシャルワーカーは、病院や保健所などで患者さんとご家族のお金や生活、こころに関する悩みの相談や、負担を軽くする方法を紹介する相談窓口です。医療機関で働くソーシャルワーカーは医療ソーシャルワーカーとも呼ばれます。ほかの施設の紹介や連絡をサポートする「コーディネーター」の役割を担っていることもあります。SMA患者さんを支援する制度はさまざまなものがありますが、患者さんやご家庭の状況、お住まいの地域などによって利用できる制度が異なり、手続きも複雑なことがあります。お金や生活の悩みはお話しづらいかもしれませんが、ソーシャルワーカーはそれぞれのご家庭の事情に合わせて、適切な支援が受けられるようアドバイスをします。病院のソーシャルワーカーは「患者相談センター」や「地域医療連携室」などにいることが多いですが、施設によって呼び方が変わりますので、詳しくは病院のスタッフにお尋ねください。
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